もうこうなると、ピアノの荘厳な響きを使って、バンドのスケールアップをいきなりアピールしようと考えたと思しきシンフォニックかつゴシックなメタル・バラード「UNDER THE TREE」が“振り”にしか思えなくなる。
その壮大さからスカ・パンク・チューンの「DO THE DANCE」、2ビートのパンク・ナンバー「Faster Than The Clock」と繋げ、2ステップ、ダイブ、モッシュ・サークル、ヘッドバンギングと観客からあらゆるフィジカルなリアクションを引き出し、いわゆるDEAD POP FESTiVALで言うところの“地獄絵図”を作り出したあと、MAH（Vo）が言ったのが次の言葉。
「敵も味方もありません。音楽で一つになろうよ。ウッソー。そんなことはどうでもいい。お互いに気を遣って、やりづらいですねってなるんじゃなくて、俺みたいな悪い奴が出てきて、全員をボコボコにすることが１つになることだと思ってます。SiMの、SiMによるSiMのためのDEAD POP FESTiVALにようこそ！ 週末なんだから、うちで休んでりゃいいのに朝からダイブ、モッシュしかできないクソ馬鹿野郎。やってよかった。ありがとうございます！」
これだ。この人を食ったようなMAHの言葉を待っていた観客は少なくなかったはず。「UNDER THE TREE」で壮大なムードを演出しながら始まった後だけにMAHの、いわゆる“不適切”な発言は、よけいに痛快だ。それを考えると、コロナ禍を乗り越え、ようやく通常通りの形でDEAD POP FESTiVALを開催できたという状況を思えば、そうなるのもあたりまえなのだが、昨年のMAHはもしかしたらちょっと真面目すぎたんじゃないか。もちろん、「クソ馬鹿野郎。やってよかった。ありがとうございます！」と聞いた今だからこそ、そう思えるのかもしれないのだけれど。
「合言葉は１つ。やるっきゃないでしょ！」（MAH）
その言葉通り、そこからバンドは「Blah Blah Blah」「Set me free」とこれまで幾度も観客を暴れさせてきた曲を繋げ、CAVE STAGEをぐわんぐわんと揺らしていく。
そのタイミングで昨年9月にリリースしたアルバム『PLAYDEAD』から披露した「BBT」は、GODRi（Dr）のずしっと重いドラムが印象的なポップ・パンク・ナンバー。SHOW-HATE（G）がイントロで奏でる不穏なリフとサビのキャッチーな展開のギャップはもちろん、レゲエ、サーフ・ロックが絶妙に入り混じる展開がSiMならでは。オールディーズを思わせるキャッチーなサビも人を食ったようなところがいかにもSiMっぽい。
中盤のMCでは、ダメモトでオファーしたら、みんなOKしてくれたという今回のメンツが、実はみんなどこかで繋がっていて、いきなり電話して、ギャラは払いますからという関係性のアーティストはいないというところが「まさにDEAD POP FESTiVAL」とMAHは根っこにある真面目さも覗かせながら、結成20周年を迎える今年の11月2日と3日、横浜のぴあアリーナMMで20周年の記念ライブを開催することを発表して、トリのSiMまで残った観客を歓ばせる。そのライブはSiMを語る上で外せない人達を迎えた対バン・イベントになるそうだ。
20周年記念だから、今回のDEAD POP FESTiVALのステージでも何かサプライズを考えたけれど、「HYDEさんにシークレットでkenさんを出されたら、何をやっても勝てない。ありがたいけど、あれはずるいよ」と苦笑いしながら言ったMAHはこう続けたのだ。
「でも、戦わないといけない時もある。SiMとして、SiMの曲を普通にやって勝とうと思います。とんでもない景色を見せてくれ！」
CAVE STAGEにいる全員がワイプで応えたスカ・パンク・チューンの「Devil In Your Heart」。そして、そこから一転、「世界で1位を獲った曲！」とMAHが言いながら繋げた「The Rumbling」のミッドテンポのゴシックなロック・サウンドが印象づけたのは、MAHがこの日、口にした「世界のSiM感」。なるほど、1曲目の「UNDER THE TREE」はここに繋がる伏線だったわけか。
しかし、この日のMAHはその後も絶好調、いや、舌好調で、THE ORAL CIGARETTESの山中拓也に「MAHさんはすぐに死ねと言う」と言われたことに言及しながら、「俺の“死ね”は感謝の“死ね”だから」と笑いながら、「元気ですか？なんで元気なんだよ！死ね！」と本編最後に演奏中、SHOW-HATEとSIN（Ba）が回転ジャンプをキメる「KiLLiNG ME」をCAVE STAGEに投下。ダンサブルでアップテンポのロック・チューンでとどめを刺すように観客を暴れさせると、MAHは手でハートマークを作る。らしくないと思う間もなく、そのハートマークをばりっと割ると、噛み砕いて、にやっと笑ってみせたのだった。
「1曲入魂！」と言ったアンコールは、最近、いきがいい若手の中で一番生意気だというPALEDUSKからKAITO（Vo）を迎え、「f.a.i.t.h」を披露。ウォール・オブ・デスで砕け散る観客の前でデス声の応酬を繰り広げた。
<セットリスト>
1.UNDER THE TREE
2.DO THE DANCE
3.Faster Than The Clock
4.Blah Blah Blah
5.Set me free
6.BBT
7.Devil in Your Heart
8.The Rumbling
9.KiLLiNG ME
En1. f.a.i.t.h with Kaito(Paledusk)
文：山口智男
写真：鈴木公平/半田安政