昨年12月にアルバム『不出来』をリリース以降、全国ツアーやフェスにとライブを重ねてきたtricotが、CHAOS STAGEの2番手で登場した。ライブレポートの前に触れておきたいのだが、DEAD POP FESTiVALとtricotにはちょっと因縁めいたものがある。それはDEAD POP FESTiVALに過去何度かラインナップされているのだが、そのうち数回をメンバーがはやり病をわずらったりしたため、キャンセルになっているのだ。今回はどうなるのだろうとドキドキしたお客さんもいただろう。安心してください。今回はバッチリです! ということで、因縁との決着に終止符を打つべく、TAKUMA(10-FEET)から「SiMまで繋ぐぞー!」のバトンを受け取り、ステージに現れたtricotのライブがスタート。
この日は「體」から。刺激的な歌詞にふわふわしたドープなサウンドで、オーディエンスを出だしから引きずり込む。この緩急ある曲に続いたのは、アルバム『不出来』に収録されている「冗談検定」。妖美なキダ モティフォ(Gt,Cho)のギターサウンドと中嶋イッキュウ(Vo,Gt)の魅惑的なヴォーカルが美しく混ざり合っていてたまらない。ここからキダのギターの音色と吉田雄介(Dr)の刻むビートが脳裏に焼き付いた「おもてなし」に。まさに演奏と歌が際立つナンバーに、オーディエンスはハンズアップで応える。そこにコーラスの素敵なハーモニーとロックなメロディがミックスされた「18,19」が続き、4人は楽曲に命を吹き込んで会場を解放していく。さらに魅せるドラムソロから幕開けた「秘密」では、オーディエンスは思い思いの楽しみ方で、メンバーが鳴らす音を夢中で追いかけていた。ヒロミ・ヒロヒロ(Ba,Cho)のうなるようなベースとイッキュウのハイトーンボイスが観客の心をつかみとっていく。気がつくとオーディエンスは、すっかりとtricotワールドに飲み込まれている。
曲が終わり、イッキュウがMCを挟む。「DEAD POP FESTiVAL、誘ってもらえてありがとう。これまでに何回かキャンセルしてしまいましたが、あと1曲、最後のところまでこれました」と、今回参加できた喜びを伝える。さらに事前のアーティストコメントで、「家探し」と「彼氏がいないこと」からの解放と書いていたのが、この日までに無事に解放されたことを発表した(おめでとうございます!!)。
このように迎えたラストは「不出来」。独特な浮遊感がたまらないこの曲は、歌詞が頭に突き刺さってくる。
<午前四時の空 あの歌がよく似合う 君が胸を痛めていたようなニュースで画面が埋まる 理不尽な人々を恨み 私は今日も息をひそめるのさ>
聴いていると、なんだか海に飛び込んでぷかぷかしたくなってくる。ポップであり、ロックであり、ヘビーでもある。さまざまな印象を曲ごとに感じるんだけども、一貫していたのはtricotはライブバンドだということ。4人が生み出すグルーブにオーディエンスは、ラストまで魅せられていた。
経済不況に異常気象、さらには長引く戦争。そして、文明の発展をあざ笑うかのように次々と出てくる新型のウイルス。他にも小さなことから大きなことまで涙したくなる昨今。でも時間は止まってはくれないから、しょげていても始まらない。よりよい未来をイメージして、上を向いていかないといけない。たとえそのイメージが、つらいことばかりであっても、目を背けずに乗り越えていくことが、今を生きる私たちには大切なことだ。そんなことをtricotのライブを観ていて感じた。それほど強烈なパワーを発していたライブだった。ネガティブワールドが地球を覆っているけど、DEAD POP FESTiVALに来ている私たち1人1人くらいはそんな世界に反してポジティブにいこうよ、そんなふうに思えた。そう、あたりまえがあたりまえではなくなってしまわないように。
こうして曲を終え、3人のメンバーがいなくなったあと、ひとりギターを鳴らし続けたキダのプレイが儚くも美しかった。
<セットリスト>
01.體
02.冗談検定
03.おもてなし
04.18,19
05.秘密
06.不出来
文:相沢修一
写真:半田安政