今日は仲間に入れてもらえた気がします

  • 2022年6月25日
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リハーサルの段階から、彼女の歌声とバンドセットで鳴らされる演奏に棒立ち状態で聴き入る観客たち。終わると、自然と拍手が沸き起こっていた。
「DEAD POP FESTiVAL 2022」初日は残り2組となった。トリ前の重役を務めたのは、ヒグチアイである。2日目に出演予定だったtricotのメンバーがコロナ感染症の濃厚接触者と判定されたために急遽キャンセル、今回唯一の女性アーティストとなった。

ドラムがビートを刻み、ヒグチによる流麗な鍵盤が轟くと、「やめるなら今」でライヴはスタート。日中の暑さは和らいだものの、吹き付ける風はかなり強い。彼女の歌声は時に激しく、時に穏やかに、気流のようにコロコロと表情を変えていく。続く「前線」においても彼女のエモーションは大きなうねりを上げ、観る者にある種の緊張感を強いるものであった。

「あのう、SiMとは1回しか会ったことがなく、『進撃の巨人』(TVアニメ)の告知があったタイミングで、SiMがその時間に合わせてきて、私は先輩だから1時間遅らせたら、SiMが謝ってくれて。それで(『DEAD POP FESTiVAL 2022』に)呼んでくれたんだなと。メンバーと話したら、謝罪の気持ちではなく呼んだと。(SiMとヒグチアイは)『進撃の巨人』のオープニングとエンディングをやって、そういう縁を大事にするんだなと。バンドは仲間がいて、眩しく思っていたけれど、今日は仲間に入れてもらえた気がします」とヒグチ。

アカペラ調の歌い回しからバンドインする「ラジオ体操」、研ぎ澄まされた鍵盤の出だしにドキッとした「まっさらな大地」と、ヒリヒリした歌声で観客の意識を奪い去る。大勢の人がいるフェスにおいても、一人ひとりに語りかけ、歌を紡ぐヒグチの姿勢に1ミリもブレはない。誰もが自分に歌われているのではないか。そう思わせる稀有なシンガーソングライターなのだ。

締めは、TVアニメ『進撃の巨人』エンディング曲「悪魔の子」を披露。彼女は椅子から離れ、ステージ前方に立つと、歌にありったけのエネルギーを込めていく。後半は天を仰ぎながら、絶唱する場面もあり、もはや何者かが憑依しているような鬼気迫るものを感じた。そのバトンは見事にSiMへと繋がったのだ。

<セットリスト>
1. やめるなら今
2. 前線
3. ラジオ体操
4. まっさらな大地
5. 悪魔の子

 

文:荒金良介
写真:かわどう