MAH直々にバンドにDMして、今回の出演をオファーしたMAHのお気に入りのバンドということで、TOROを見に来た人は、もしかしたら期待していたものとは違ったんじゃないか。その自覚はバンド自身にもあったらしく、「君達には合わないジャンルかも」と梅田シュウヤ(G, Vo)も言っていたが、しかし、そこにこそ、この日のTOROの見どころがあったように思う。
TOROは梅田と大西竜矢(Dr)の2人組。結成は2023年の4月。ライブの時は、その2人にギタリストとベーシストがサポートで加わる。
その彼らのDEAD POP FESTiVALデビューは、「アオアオアオ~~」と梅田が遠吠えを上げ、「本音」で始まった。MAHが「お気に入りのバンド」という言葉とともにMVを共有していたグルービーなロック・ナンバーだ。腰に来る横ノリにはあまり慣れていないのか、CHAOS STAGEに集まった観客たちは、どう楽しもうか様子を窺っているが、バンドはそんな観客を煽ることもなく、と言うか、そもそも気にするでもなく、梅田が「ああっ、ああっ」と喘ぎ声を上げながらジャム・セッションになだれこむと、そのままアップテンポのロック・ナンバー「THE SICKO」、さらに「明後日出す新曲。マジ、ヤバい」(梅田)とナンセンスともシュールとも言える言葉をファンキーな演奏に落とし込んだ「BOW」に繋げていく。その「BOW」を演奏しおえたとき、梅田が言った「この曲かっこよくない?」という言葉は観客に向けたものなのか、メンバー達に向けたものなのか、ちょっとわからなかったけれど、「はじめまして」とようやく観客に挨拶した梅田が嬉々としながら続けた言葉が「マジ、ヤバくて。マジ懐かしくて」だった。
「16年のDEAD POP FESTiVALが、俺が初めて見にいったフェス。ライブを見たのもその時が初めてで。トッパーが10-FEET。ヤバかったね。Crossfaithがむちゃくちゃかっこよかった。地震が起きた。それからCrossfaithにハマって、高校を早退して、茨城まで見にいきました。それくらいこのフェスに思い入れがあります」
そこまでだったら、単純にいい話で終わったのに梅田は一言つけ加えずにいられなかったようだ。
「SiMのライブは、疲れて、その辺で見てた(笑)。あ、「f.a.i.t.h」だと思って、走ったけど、間に合わなかった。あの曲、短いから」
照れ隠しなのか、それとも強がってみせているのか。人を食ったような態度を含め、誰かのことを思い浮かべずにいられなかったが、その流れで言ったのが前掲の「君達には合わないジャンルかも」。そこに繋げた言葉もふるっていた。
「次にやる曲はあなたのためではなく、自分のために書きました。共感する人は、バンドやってください。(DEAD POP FESTiVALに)出られるよ」
バンドが演奏したのは梅田自らパワー・コードをガガガガと鳴らす「1999」。そのタイトル通り、90年代を連想させるポップなオルタナ・ロック・ナンバーだが、因みにタイトルは梅田と大西の生まれた年なのだそう。
そこからバンドはさらにプロトパンクなロックンロール「言い逃れたい」、グルービーなロック・ナンバーの「FEEL GOOD」と繋げていく。もちろん、あいかわらず観客に訴えかけるそぶりなどこれっぽっちも見せずにだ。しかし、ロックなんて楽しんだ者勝ち。共感なんて必要ない。
不遜とも、人を食っているとも言える態度もさることながら、観客の盛り上がりに頼らず、自分たちだけで完全燃焼しようとするTOROの姿に彼らがコンセプトに掲げる“ロックの復権”を見た気がした。
DEAD POP FESTiVALに付きもののダイブもモッシュも起きなかったけれど、CHAOS STAGEに集まった観客たちが最後までそこを離れなかったのは、“ロックの復権”を感じたからなのかどうかはさておき、TOROのライブに何かしらの魅力を感じ取っていたからだろう。
ラスト・ナンバーは、ファンク・ロックの「どのくらい」。同期で鳴らしたトランペットがむせび泣く。梅田が歌い上げるエモいメロディに観客が手を振った。
「またね。ライブ見に来て」と最後に梅田は言ったが、相当、自信があるのか、天然キャラなのか、この期に及んでそれを言うかと思わずつっこみたくなった。でも、そんなところも含め、ロック・バンドとして好感度爆アガり!
<セットリスト>
- 本音
- THE SICKO
- BOW
- 1999
- 言い逃れたい
- FEEL GOOD
- どのくらい
文:山口智男
写真:かわどう