神仏などがあまくだること。あるいは、貴人の来臨を敬って言う言葉という本来の意味を考えると、昨今、降臨という言葉はあまりにも軽々しく使われているような気もするのだが、DEAD POP FESTiVAL 2024におけるHYDEによるステージは、まさに降臨という表現がふさわしいものだった。ただし、この場合、あまくだるのは、神仏ではなく、悪魔なのだが。
メンバー全員があやしげな仮面を付けたメンバー達が轟音の演奏を炸裂させる中、ステージの中央に置いた2メートル以上はあるに違いない演説台の上に軍服と礫刑にされたイエス・キリストの茨の冠を思わせる軍帽を身に着けたHYDE(Vo)が登場。「Singing! Louder! C’mon! C’mon!」とアジテーションしながら、1曲目の「UNDERWORLD」から観客にシンガロングの声を上げてさせていく。
「Are you fuckin’ ready for DEAD POP FESTiVAL!?」
そこからヘヴィなギター・リフにメズマライジングなシンセのフレーズが絡みつく「MAD QUALIA」では、1曲目の邪悪な歌声から一転、官能的な歌声を響かせる。そして、ステージから観客の上に身を乗り出し、「一番治安の悪いフェスって聞いてきました!これからどんどん悪くなるんでしょ。先っちょだけもいいから見せてくれないか!?」と観客を煽る煽る。
「3-2-1!ではっちゃけろ! 3-2-1!」
HYDEの合図でシンガロングの声が響き渡る中、特大のモッシュサークルが生まれ、ダイバーたちがクラウドサーフィンおよびリフティングしながらステージに押し寄せるというDEAD POP FESTiVALならではの“地獄絵図”が目の前に出現。
3曲目にネットをザワつかせていたLINKIN PARKの「GIVEN UP」のカバーを披露する頃には、CAVE STAGEの人口密度と熱狂を、HYDEはあっさりと更新していたのだが、後半戦、その熱狂はさらに凄まじいことに――。
「このフェス、出たかった。うれしい! SiMと言えば、この曲。(ギターの)SHOW-HATE君が作ってくれました。一緒にやらない手はないんじゃない?」と言うと、SHOW-HATEを迎え、「DEFEAT」を披露して、CAVE STAGEを揺らしたところまではきっと予想していた人もいたんじゃないか。
HYDEの凄いところは、そこからだ。
「SHOW-HATE君のインタビューを読んだら、とあるギタリストに影響を受けたと言ってたんだけど、会ったことありますか? ない? その人を呼べるの俺ぐらいかな」
HYDEの言葉に観客はもちろん、HYDEの横に立っているSHOW-HATEも動揺し始める。
「L’Arc〜en〜Cielからken!」
客席がどよめく中、ステージに登場したkenがSHOW-HATEとハグを交わし、「SHOW-HATEに愛を込めちゃおうかな」とギターを手に取る。そして、kenのギターに合わせ、HYDEが歌い出したとたん、悲鳴に近い歓声が上がる。
曲はL’Arc〜en〜Cielの「HONEY」。
kenとSHOW-HATEが向き合い、ギターをプレイ。kenのギター・ソロを目の当たりにしたSHOW-HATEが「ヤバい!」と叫んだのが口の動きでわかった。
シンガロングしている観客はもう昇天寸前だ。いや、この場合、地獄に堕ちると言うべきか。うーん、もうどっちでもいい。
そして、観客を完全に昇天させたのは、ダンサブルなビートで観客をジャンプさせた「6or9」を挟んで、「あと1曲!すげえ盛りあがってくれてありがとう。君たち、最高にいい人です」と最後に披露した「GLAMOROUS SKY」。HYDEが作曲とプロデュースを手掛け、中島美嘉が歌ったバージョンよりも疾走感を際立たせたアレンジに再び特大のモッシュサークルが生まれ、最後はCAVE STAGEに集まった全員でシンガロングする。その瞬間、HYDEはCAVE STAGEの人口密度と熱狂に加え、もう1つ、一体感のスケールも更新してみせたのだった。
悪魔、いや、まさに魔王の所業。これを降臨と言わずして何と言おう。
DEAD POP FESTiVALの伝説として、語り継がれるに違いない。
1.UNDERWORLD
2.MAD QUALIA
3.GIVEN UP(LINKIN PARK)
4.DEFEAT(with SHOW-HATE)
5.HONEY(with SHOW-HATE & ken)
6.6or9
7.GLAMOROUS SKY
文:山口智男
写真:鈴木公平