ライトが稲光を演出する中、「PANDORA」から始まったSiMが、熱烈にシンガロング、ダイブ、モッシュ、ジャンプ、2ステップで応える観客とともに、どんなライブを繰り広げたのかは、セットリストからぜひ想像していただきたい。ラウドなリフをガツンと鳴らすだけではなく、タッピングを含め、印象的なフレーズも織りまぜるSHOW-HATE(Gt)、グルービーなフレーズに加え、スラップもハジけさせるSIN(Ba)、手数の多さとは裏腹にタテのリズムを的確にキメるGODRi(Dr)――激しさの中に心憎いほどにテクニカルなプレイを閃かせる3人のパフォーマンスももちろん見どころだったに違いないが、このレポートでは、今回のDEAD POP FESTiVALが同フェスの復活であると同時に新たな始まりであることを訴えかけたMAH(Vo)の言葉の数々にフォーカスを当ててみたい。なぜなら、この日、MAH自身が激しいパフォーマンスを繰り広げながら、自分の気持ちをていねいに語ろうとしていたように思えたからだ。
「PANDORA」から3曲をたたみかけ、熱狂を作り上げたところで、「バンドもおまえらもやりすぎ! でも、何事もやりすぎくらいがちょうどいい。ありがとうございます!」と今日出演したバンドと観客に感謝を述べたMAHは早速、DEAD POPが本来の形に戻るまで3年かかった、いや、敢えて3年かけた理由を、こう語ったのだった。
「3年間、ロックのライブは危険だ。大好きな歌を唄うことも危険だとレッテルを貼られ、鎖に繋がれた気分だった。だけど、壁に穴をあけて、塀の外に出て自由だっていうのはイヤだった。なぜなら、俺達は無実だからだ! だからこそ、誰よりも上の人の言うことを聞いて、無実を証明してここまで来ました。俺達を閉じ込めた奴らに鍵をあけさせて、看守の前を堂々と歩いてここまで歩いてきた。それが本当の自由だと思う俺の生き方についてきてくれてありがとう。ここから始めよう。今日は思いきって歌ってくれ!」
もちろん、そんな言葉が観客の気持ちに火を付け、観客がさまざまなアクションで応えることによって、ライブはさらに盛り上がっていくわけだが、MAHをはじめとするSiMの4人は、そんな観客に9月にリリースするというアルバムからSiMらしいレゲエ・パンクな新曲「BBT」をワンコーラスだけ初披露するというサービスも忘れない。
「今日はここまでしかやりません。リード曲でも何でもない、ただのアルバム曲。それがこんな感じなんだから、とんでもないアルバムができました。楽しみにしててください」(MAH)
中盤、最後まで残った大勢の観客の熱烈な歓迎に感極まったのか、「みんなありがとう。みんながこうやって、えっと」と言葉を詰まらせたMAHは、「ウッソー。こんなん普通じゃん。めでたい日に泣いてられっか。笑うしかないよ! ハハハ!」と持ち前の諧謔精神を見せ付けながら、そこから一転、不意に真面目なことを語り出すから油断できない。
「(コロナ禍前の)2019年に戻ろうって、よく言うけど、無理だと思う。もう戻れない。ゼロから、イチから作っていく気持ちでやらないとダメだと思う。イチから作っていこう。俺とおまえらならできるだろ? (コロナ禍で一度なくなった)日本のロック・シーンを作っていって、2019年を超えて、完成させよう!」
その第一歩が3年ぶりにコロナ禍中の、さまざまな規制なしに開催した「DEAD POP FESTiVAL 2023 -解-」なのだろう。その意味では、復活と言うよりもやはり新たな始まりといいう気持ちのほうがMAHの中では大きいんじゃないだろうか。
ともあれ、SHOW-HATEとSINが演奏しながら、お馴染みの回転ジャンプをキメた「EXiSTENCE」から、繋げた本編ラストの「KiLLiNG ME」では、ケガ人を救護するため、演奏が中断するというハプニングがあったものの、コロナ禍の期間中は控えていたファンをステージに上げ、ギターを弾かせるという演出を久々にやってみたところ、そのファンがSHOW-HATEの出番がないほど、見事なプレイで観客を沸かせるという別の意味でハプニングが!
それもまた見どころの1つだったと思うが、「なんでSiMはこんなに人気があるんだろう? びっくりするよね」とMAHが語り始めたアンコール。また彼一流のジョークかと思いきや、その後に続いた言葉に胸を打たれずにいられなかった。
「それは誰でも歌える、歌いたくなるようなフレーズをいっぱい持ってるからなんだよね。そんな曲をいっぱい書いてる俺がみんなに頭を下げて、歌わないでくれってお願いしてきた気持ちわかる!?」
悪魔による突然の心情吐露に戸惑っていると、MAHはさらにこう続けた。
「そんなのどうでもいい! 恨みつらみは捨てて、今日を生きる。今日がよければ、それでいい。今日は思いっきり歌ってってくれ!」
アンコールの1曲目は、まさにMAHが言った、誰でも歌いたくなるフレーズを持ったSiMのアンセム「Blah Blah Blah」。
「退くぐらいのくれよ!」というMAHの叱咤に応え、今日イチのシンガロングの声を上げた観客にトドメを刺すようにSiMの4人がお見舞いしたのは、「f.a.i.t.h」。ウォール・オブ・デスからモッシュがダイナミックにハジけ、1日目の大団円にふさわしい熱狂が生まれた。
そして、MAHはステージを降りる前に「これを京都大作戦、ハジマザ(HAZIKETEMAZARE FESTIVAL)、ポルノ超特急に繋げていってくれ!」と訴えかけることも忘れなかったのだ。
<セットリスト>
01.PANDORA
02.Amy
03.Faster Than The Clock
04.The Rumbling
05.BBT
06.A
07.EXiSTENCE
08.KiLLiNG ME
(Encore)
01.Blah Blah Blah
02.f.a.i.t.h
文:山口智男
写真:鈴木公平